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ファッション販売2000年3月号

『勝ち組ワールドの転機』

(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔


 

陰りが拡がるワールドの小売SPA事業

 革新的な事業フォーマットと機動的な組織でマーケットを創造する勝ち組と、旧態な事業フォーマットと組織体質から抜け出せない負け組の、明暗が一段と際立ってきたアパレルビジネス。“コムサ・イズム”に続いて“モノ・コムサ”“コムサ・コムサ・コムサ”と次々に王手を仕掛けるファイブフォックスと並んで、卸事業から小売SPA事業への劇的な転身で勝ち組の代表とされてきたワールドだが今、2つの壁に直面している。
 第一が止まらぬ卸事業の縮小。99年9月中間期の全社売上高は9.7%の減収に終わったが、小売SPA事業が424億円と17.5%の増収を果たしたのに対して卸事業は261億円と33.6%も縮小。わずか2年で売上はほぼ半減し、全社売上に占めるシェアも38.1%まで低下してしまった。99年秋冬物から導入した新取引システムで返品率や決済率の改善こそ進んでいるものの、売上減少には歯止めがかかっていない。
 ワールド自身も現時点では卸事業の拡大は考えておらず、効率最優先で戦線を縮小していく方針。商品企画/生産と店頭が分断された卸の業務プロセスのままでは、収益性の抜本的な改善は望めないからだ。
 しかし、将来の展望を欠いたまま、ただ効率優先で縮小していくという現在の状況では、卸部隊の志気低下は避けられないし、効率の改善を業容の縮小が食い潰しかねない。戦線を縮小していく以上はその着地点の完成形とスケールを明示すべきで、それを欠いたままでの今のような戦線縮小は不測の事体を招きかねない。不安を払拭しきれない取引小売店のためにも、ワールドは早急に卸事業の新たなグランドデザインを提示すべきであろう。
 いささか拙速にさえ見える卸事業の戦線縮小もその速度はともかく、これまでは予定通りのシナリオであった。“オゾック”に代表される小売SPA事業の急激な成長が、卸事業の縮小を十分にカバーしてきたからだ。が、今、その小売SPA事業に陰りが拡がっているのだ。  92年1月に打ち出されたスパークス構想から約8年、93年秋の“オゾック”スタートから約6年半が経過したが、ワールドの小売SPA事業の売上はゼロから984億円と1000億円近くまで拡大し(2000年3月期見通し)、同社の屋台骨を支えるに至った。一連の小売SPA戦略は、ワールドに奇跡的とも評すべき大成功をもたらしたのである。
 が、98年から基幹“オゾック”の勢いが陰りはじめ、99年に入っては他のSPAブランドも次々と失速。店舗の新設によって小売SPA事業総体は99年中間期も2ケタ成長を継続したが、絶好調と言えるのは“アンタイトル”と97年春スタートの“クードシャンス”程度。基幹“オゾック”はついに7.9%の減収に陥り、好調に推移していた“インディヴィ”“インデックス”“ボイコット”“タケオキクチ”“アンタイトル・エム”等も99年秋口以降、前年割れ店舗が目立ってきた。
 ワールドでは管理可能利益や減価償却費等のキャッシュフローを有形固定資産や棚卸資産、売掛債権残、差入れ保証金等の主要な事業資産で割った「キャッシュフロー資産収益率(CFROA)」を算出している。事業に直接関係ある資産を使ってどれだけの現金収入を得たかを示す同社独自の指標だが、卸事業主要4グループのそれが97年中間期の18.9%から98年中間期は19.9%、99年中間期は23.2%と売掛債権の圧縮とともに着実に改善されているのに対して、小売SPA事業主要4グループ(“オゾック”“TK”“アンタイトル”“インデックス”)のそれは98年中間期の26.4%から99年中間期は18.0%まで急落し、卸事業を下回ってしまった。絶好調の“アンタイトル”グループを除いた他3グループのCFROAは、かなりの速度で悪化していると推察される。
 99年中間期の有形固定資産は評価替えした土地を除けば前中間期からほとんど変化していないし、差入れ保証金はむしろ減少している。つまり、小売SPA事業のCFROAの悪化は棚卸資産、すなわち商品在庫の積み上がりが大きな要因と考えられる。全社ベースの商品回転日数は前中間期の73日から85日に悪化しているが、CFROAの変化を見る限り、その原因の大半は小売SPA事業にあると推察される。  一気呵成のSPA化を果たして勝ち組に回ったワールドだが、卸事業の縮小を小売SPA事業の急成長がカバーするという、これまでのサクセス構図が崩れ始めているのだ。

小売SPA事業失速の要因は何か

 ワールドの小売SPA事業は、ビジネスプロセスの異なる四つのグループから形成されている。開発の古い順に、1)旧DCビジネスの体質を引き摺った“TK”グループ、2)田山ディレクションに基づくトレードオフ型SPA事業の“オゾック”グループ、3)規範的な素材軸型SPA事業の“アンタイトル”グループ、4)セレクト編集を加えた小売SPA事業の“インデックス”グループがそれだが、98年以降の失速は2)から始まって1)、4)に拡がってきた。現段階で順調なのは3)だけで、実に4グループ中3グループが勢いを削がれている。
 この主要4グループ以外にも、4)に近い幾つかの小規模なセレクト編集型SPA事業、別会社を吸収したファッションCVSの“イッツデモ”事業等が展開されているが、いずれも開発途上の域を出ておらず、多店化の目処は立っていない。大規模な小売事業構想等も発表されているが、それを成功に導く事業プロセスはまだ確立出来ていないのが実態だ。  これまでワールドの小売SPA事業の成長を支えてきた“オゾック”グループの失速が痛いところだが、その要因は98年の中頃から指摘されていた。
 “オゾック”にせよ“インディヴィ”にせよ、“オゾック”グループの事業プロセスはほぼ同様で、3ヶ月サイクルの田山ディレクションをべースにした計画生産商品で立ち上げ、シーズン直近から二週間サイクルで店頭動向に即応してQR企画・生産した商品を補正投入していく。店舗別、アイテム別の前年実績、直近販売動向からアイテム別の生産枠が二週間単位に確保され、タイムリーに確保された素材からトレードオフ技法で売筋商品が創り出されていく。
 トレードオフとは小売業のオリジナル商品開発等で使われてきたMD企画技法で、売筋の売筋たる外形的なポイントを上手く押さえながら、スペックや生産プロセスを簡易化してコストや生産期間を圧縮するもの。「速い、旨い、安い」の三拍子が揃うがスペックの希薄化と同質化は避けられないから、ブランド商品の企画技法としては疑問符がつく。
 初期から指摘されていた問題点は田山ディレクションに基づく計画商品の消化率の不安定さとその残品処理であったが、QR商品の消化率の高さと売上の多大さがそれを十分にカバーして成功をもたらしていた。真の問題は、QR企画・生産における安易なトレードオフと商社依存にあったと考えられる。
 “オゾック”プロセスでは売筋のトレードオフ企画と流通素材による短サイクル生産がキーで、短時間で大量の売筋商品投入が可能なものの、トレードオフによるスペックの希薄化と流通素材による同質化が避けられなかった。それでもライバル他社がQR技法で追いつけないうちは独走できたが、QRが当たり前になるにつれて同質化競争に巻き込まれ、価格が崩れるようになってきた。加えて、売上を押し上げてきた団塊ジュニア世代がヤングキャリアへと抜けて売上の減少に輪をかけた、というのが失速の要因であろう。
 壁にあたりだしてオリジナル企画の強化やスペックの追求に動いたものの、計画商品比率の上昇は消化率の低下に直結してしまうし、スペックの追求も開発サイクルの短さと商社依存の生産体制が災いして思うようには進展せず、業績回復には至っていない。リミックス技法も顧客の間口拡大には多少、寄与しただろうが、オリジナル商品の企画・生産プロセスの問題解決を欠いては壁を撃ち破る力とはならなかった。  どこの会社でも同様に成功プロセスは全社に波及するから、“オゾック”プロセスの行き詰まりが同様の手法を取り入れていた他事業に波及するのは必至であった。
 トレードオフと商社依存によるQR生産という“オゾック”型とはまったく異なる事業プロセスで成功しているのが“アンタイトル”グループ で、開発素材とカラー計画を軸にデザインと色組み変化でQRを展開し、安易な商社依存を否定して自ら生産プロセスをコントロールしている。
 オリジナルな開発素材に基づくQRでスペックのレベルも保てるから、同質化に巻き込まれて値崩れするリスクも少ない。フランドルグループに近い事業プロセスだが、カラーストーリーとQRの組み合わせに独自性を感じさせる。
 当然ながら、ワールドでは“オゾック”プロセスへの過剰な依存を反省し、“アンタイトル”プロセスへの移行を急いでいるが、これとて万能ではない。社内外の様々な成功プロセスに何時も目を光らせておき、自社の性格の異なる様々なブランドに最適な事業プロセスを取り込んでいくべきだが、“オゾック”プロセスのあまりの成功に一瞬、気が弛んだというのが実態だろう。
 “オゾック”プロセスとあまり関わりのないセレクト編集型SPA事業やその他の小売事業にも陰りが見られるが、その要因はモールや路面で展開する小売事業の品揃えやVMD、ストアオペレーションのトータルなノウハウを未確立なまま、事業展開を急いでいることにありそうだ。様々なアイデアに果敢に取り組む姿勢は評価すべきだが、ノウハウを確立しないまま、株主資本を注ぎ込んでいくのはどうかと思う。

ワールド再成長への戦略は何か

 卸事業でもSPAブランド事業でもセレクト編集を加えた小売SPA事業でも壁にあたっているワールドだが、再成長への転機はごく近いと期待される。なぜなら、経営陣が柔軟で特定の成功プロセスやチャネルにまったく固執しておらず、新たな成功プロセスに道を開いているからだ。しかし、実際の転機を手にするには以下の戦略が不可欠と思われる。
 まず、卸事業、SPAブランド事業、セレクト編集を加えた小売SPA事業、それぞれについて、明確なグランドデザインとそれを実現する事業プロセスを社内外に明示すべきである。ゴールのない縮小を続けるような事業があっては優れた人材の流失を招きかねないし、グランドデザインを欠いてはマネーマーケットの支持を失いかねないからだ。
 卸事業に関しては、今日のウェアリングに応えるワールドならではの高品質高スペックの単品MDブランドを開発して既存ブランドを再編し、取引小売店の不安を解消しなければならない。その実現には、売上の縮小で崩れてきた生産チームの絞り込み再編による、高品質高スペック商品のサプライチェーン再創が不可欠だ。かねてからの構想であるバーチャルSPAを早急に実現しないと、ワールドが培ってきた取引先専門店という資産を永久に失うことになりかねない。
 SPAブランド事業に関しては、“オゾック”型の事業は適正規模に留めるものと“アンタイトル”型の素材軸QR事業プロセスを導入して拡大するものとを見極め、新たに“ユニクロ”型事業プロセスの展開に挑戦する。どの事業プロセスにおいても、スペックの追求とサプライチェーンの自主コントロールを放棄してはならない。
 セレクト編集を加えた小売SPA事業に関しては、メジャー化の見通しが立たないものは早急に撤収して株主資本の消耗を回避し、“ユニクロ”型事業プロセスを導入するメジャービジネスに戦力を集中する。
 ブランドビジネス型SPAで百億円を狙えないもの、小売SPA型メジャービジネスでは五百億円を狙えないものは投資不適格として見切る決断が求められよう。“オゾック”に代わって百億円、五百億円の市場を短期に切り開くメジャービジネスのグランドデザインこそ、今のワールドに求められているものではないか。

 

2000年 2月号 『“ユニクロ”vs“GAP”の全面対決が招く淘汰の日』