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ファッション販売2000年8月号

『価格破壊バトル“秋の陣”その現実と対策』

(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

 

低価格戦略組が圧勝した春夏商戦

 今春夏商戦では、積極的に低価格戦略を押し進めたブランドが好調に売上を伸ばし、躊躇したブランドは売上が低迷するという構図がはっきりと見られた。「ユニクロ」の圧倒的独走に加えて、郊外大型SCではイトキンの革命ブランド「MKクランプリュス」「a.v.v」「オフオン」が急速に数字を伸ばしたし、百貨店のヤングフロアでもライバルブランドよりワンライン下を潜る「iiMK」と「MK」が圧勝。一方で、価格訂正が遅れたブランドの数字は大きく低下した。その好例が「GAP」だ。
 3月11日に「ユニクロ」がオープンした港北東急SCの「GAP」は3月、4月と2ケタ前年割れに追い詰められ、4月の坪効率は「ユニクロ」の4分の1にも満たなかったと伝え聞く。「ユニクロ」が出店を加速している首都圏ではマークダウンが目に見えて増え、前年割れ店舗も続出している。それも、ユニクロ価格がデフェクト・スタンダードとなった日本市場では当然の結果と言うべきであろう。なぜならギャップ・ジャパンは、平均して米国価格の1.8倍という超高価格政策を訂正しないでいるからだ。
 当社では四月末から五月初めにかけて、日米で展開している「GAP」の主力アイテムについて店頭価格調査をしたが、メンズ32アイテムを平均すれば日本の価格は米国の1.84倍、レディス31アイテムのそれも1.74倍に達する。メンズのデニム・ジーンズは軒並み2倍を超えているし、メンズの裏起毛スウェットパンツやレディスの天竺タンクトップT等、2.5倍を超えるアイテムさえ存在する。この価格水準は米国市場でいうなら「バナナリパブリック」のさらに一格上に相当するもので、ギャップ社の日本市場認識は現実とかけ離れていると言わざるを得ない。
 他にも幾つか要因はあるものの、これまでの好調な販売に気を許してマーケット変化を無視した高価格政策を取り続けたのが「GAP」減速の最大要因と見るべきで、日本市場で成長を続けるためには大幅な価格引き下げが急がれよう。
 高価格政策が足を引っぱっているのは「GAP」だけではない。「ビームス」「シップス」「ユナイテッドアローズ」のセレクト編集御三家でさえ、ベーシック商品の販売不振で既存店の前年割れに直面しているのだ。差別化出来ている旬のアイテムはともかく、売上を下支えしている定番商品は価格競争に巻き込まれているのが実情で、秋冬以降の価格訂正は避けられないだろう。もはや、価格革命に聖域はなくなったのだ。

秋冬商品の価格はここまで下がる

 カジュアル業界の秋冬商品開発状況を見ると、「ユニクロ」を徹底マークした低価格商品の開発が急進しており、レディスとメンズでは1900円、2900円、3900円、キッズでは1000円、1500円、2500円での商品化が大半。それも昨年まではワンラインどころかツーライン高かった商品をこの価格に落とし込む企画が主流で、これでもかというパワープライスがあたりまえになっている。中国工場の閑散期を使った先行生産企画では「ユニクロ」の1000円下をくぐる企画も少なからず見られる等、ここまでやるかという有り様。今秋冬のカジュアルチェーン店頭では「ユニクロ」価格が常識になることが決定的なのだ。
 これがカジュアル業界だけに留まるのなら座視を決め込む者も生きていけようが、現実は想像以上の拡がりを見せている。中でも業界を震撼させたのが、イトキンの4大革命ブランドの打ち出した秋冬価格だ。  「a.v.v」「エル・プラネット」「MKクランプリュス」「オフオン」が中核素材を共通化して生産ロットを集約し、1900円、2900円、3900円という「ユニクロ」とまったく同じ単品価格をラインナップ。それも目玉商品ではなく中核商品のほとんどすべてをこのプライスラインに揃えてきたのだから、業界のショックは想像にあまりある。
 共通素材によるレディスの代表的商品をあげると、10オンスデニムのスカートとパンツが3900円、40/1ブロードのシャツが1900円、疏毛ウール10ゲージ天竺のプルオーバーが1900円、そしてフリースはデュポン社製を使ってプルオーバーが1900円、ジッブカーデガンが3900円、加えてピュアカシミヤの12ゲージ天竺プルオーバー(約130グラム)が7900円という“革命プライス”のオンパレードだ。これらは昨秋冬から2〜4ラインもの価格訂正であり、百貨店の平場商品はもちろん、量販店商品さえ下回っている。
 イトキンの革命ブランドがこれだけの価格ダウンを実現した背景は、中国生産体制の確立と4ブランドを横断する素材とアイテム(型数)の集約だ。同社の中国縫製工場開設は80年代後半と古く、現在は自社/合弁合わせて15工場が稼働しているが、かつては素材背景や生産設備の問題からQR対応が困難でライン稼働率も低かった。投資に見合う効果が疑問視されていた時期もあったが、ここ数年で一気に改善が進み、動きの早い日本のヤングキャリア市場にも対応できるようになった。既に革命ブランドに限れば全調達数量の約半分が中国生産となっており、ラインもフル稼働している。これまでの先行投資が一気に花開いたと言えよう。
 中国生産基地の生産体制確立、素材とアイテムの集約は「ユニクロ」とまさに共通しており、イトキンの革命ブランドは百貨店市場、SC市場における「ユニクロ」となりつつある。キャリア、ミセスの革命ブランドが出揃ってくれば、それは現実のものとなってしまう。イトキンの価格革命によって、もはや百貨店さえも価格低下の聖域ではなくなってしまったのだ。

ユニクロ、イトキン価格での非価格競争時代が来る

 アパレル製品の価格低下はユニクロの都心進出が契機となって一気に進んだかの感があるが、実態は輸入品の八割を占める中国産地の生産背景の拡充と大幅な品質の向上、IMF加盟を先取りしたデフレ進行と百円台の円高定着がもたらした構造的な生産地シフトが背景であり、もはや誰かが止められるようなものではない。99年度のアパレル輸入品浸透率は八割の大台を超え、平均輸入単価は20.4%も下落したが、2000年1〜3月期もさらに9.6%も下落しているから、この潮流は一段と加速している。
 いまさら単価の維持にこだわるようではシェアを失っていくしかないし、取引先や商社まかせで海外の生産背景(素材調達と工場ライン確保)に手がつけられないようでは、ライバルの前には絶対に出られない。「ユニクロ」のように海外の生産現場まで踏み込んで生産スペックまでコントロールする本格的なSPAが急進する一方で、旧来の取引先まかせでこの激動を乗り切ろうとしている量販店各社や専門店チェーンが窮地に追い込まれていくのは必然の運命と言うしかない。より速く大胆に海外生産に踏み込んだ者、国内調達ルートを切り捨てて価格訂正を断行した者が勝者であり、既存の取引先や調達ルート、これまでの実績価格にこだわった者が敗者とならざるを得ないのだ。
 もはやユニクロ価格はカジュアル業界では常識と化しており、対品質は別として『最低価格』とは言えなくなった。「ユニクロ」もプライスラインを維持しながら品質とスペックをアップさせていく方針のようだから、今秋冬はユニクロ価格での非価格競争という図式になるはずだ。それはイトキンの価格革命が吹き荒れる百貨店市場、SC市場とて同様だ。イトキンと同じ価格を叩きだしながら、MDの組み方、企画とスペックで差別化してこそ、生き残るチャンスが開けると言うものだ。
 誤解を招かないために正確に言うなら、ベーシック企画ではジャストプライス以外は通らないが、付加価値企画ではワンライン上の価格は成り立つ。しかし、ツーライン上ではパイが小さくなりすぎてビジネスにならないはずだ。

低価格戦略を如何に実行するか

 「ユニクロ」もイトキンの革命ブランドも、価値を高めての低価格実現でマーケットを握ったが、その決定打となったのはコンセプチュアルな素材とアイテムの絞り込み、生産スペックの自社開発、中国生産基地の集約と自社管理体制の確立であった。
 彼等に匹敵する価値と価格を実現するには彼等と同様な体制と生産ロットが必要になるが、ほとんどの事業者にとって手が届くはずもないものだ。事業スケールの大きなアパレルメーカーなら近似した体制で成果を手にすることも可能だろうが、専門店チェーンや量販店等の小売業者にとっては非現実的と言わざるをえない。そこで、小売業者にとって実行可能な低価格戦略のキーポイントを挙げておいた。
 まず第一に為すべきは取引先の集約であり、取引ロットをまとめて調達コストや物流コストを圧縮したり、チームMDによる生産プロセスと素材の集約、期中フォローの強化を狙うことも出来る。次に為すべきが素材の集約と紡績業者や糸商との連係であり、加工プロセスと工場の集約まで徹底できれば格段のコスト圧縮とフォロー力が実現する。
 もうひとつ、確実に調達コストを落とせるのが企画と発注を前倒しする方法。素材加工や縫製、編み立てを工場の閑散期に行えば、コストは格段に下げられるからだ。もっと手軽で即時に実行できるのが、支払いを速く完全に行うこと。取引先の集約と同時に実行すれば、コスト圧縮がいとも簡単に実現される。  これらのすべての原点となるのが商品政策の確立であることは言うまでもない。商品政策を絞り切れないでは取引先の集約も素材やアイテムの集約もあり得ないし、企画と発注の前倒しも不可能だ。商品政策がふらついているようではSPA化も調達コストの圧縮も進まないから当然、今日の低価格ウォーズにはついていけない。つまり、低価格ウォーズはコンセプトの希薄な事業者を排除し、明確なコンセプトに立脚するSPAがマーケットを制覇する新時代をもたらしてしまう。もはや過去の事業システムや価格体系に固執してはいられない。決断と全力での実行だけが生存のパスポートとなってしまったのだ。


2000年 7月号 『最新注目SCに見るスーパーストアSPA業態の実力比較』
2000年 6月号 『SC出店環境の激変にかく対策せよ』
2000年 5月号 『ファイブフォックスに学ぶドメイン転換戦略』
2000年 3月号 『勝ち組ワールドの転機』
2000年 2月号 『“ユニクロ”vs“GAP”の全面対決が招く淘汰の日』