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ファッション販売2000年11月号

『西武百貨店“SP21”プロジェクトに見る        

          百貨店自主MD売場の成功条件』

(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔


自主MD売場開発ブームの背景

 今春頃から目立ち始めた百貨店の自主MD売場が今秋、一気に急増する。その最たるものは、自主開発業態化売場の複合チェーン展開によって収益構造を抜本改善せんとする西武百貨店の“SP21”プロジェクトであろう。今春から先行した4プロジェクトに今秋から10プロジェクトが加わって201拠点が揃い、今下期で全社の8.1%、2002年度には15%の売上シェアを目指すという。
 西武百貨店ほど大々的ではないが、三越や大丸、高島屋等も、こぞって自主MD売場の開発に力を入れている。これまで掛け声倒れに終わってきた百貨店の自主MD売場開発が一気に拡がりだした背景は、次のようなものと考えられる。
 最大の要因は、SPA業態の躍進と海外製品の急増による急激な価格常識の訂正で、これまでのNBによる割高な平場では顧客の離反を食い止められなくなった事だろう。より合理的な調達・販売システムを開発して、価格の訂正に踏み切らざるを得なくなったのだ。
 第二の理由は、価格常識訂正下で歩率の嵩上げが困難となって売上の減少をカバー出来なくなり、自主MD売場による収益力の改善が急務となった事だ。先行するファイブフォックスやワールドに続いてイトキン等の大手アパレルが脱百貨店のSPA事業を本格化させていることも、百貨店側の危機感を煽ったに違いない。
 第三の理由は、QRの弊害で箱ブランドが同質化して魅力が薄れ、単品単位で比較購買されるようになり、新しい購買行動に応えるセレクトショップ的な売場を開発する必要に迫られたことだ。セレクトショップをコンセで導入すれば箱ブランド以上に歩率が圧迫されるから、自主開発という選択は必然だった。
 

自主MD売場の実態

 自主と言っても、派遣店員に頼らない自主運営というだけでは値入れ率のアップ以上に運営人件費が嵩んでコスト改善にならないし、自主編集というだけでは抜本的な値入れ率向上に繋がらないのに在庫リスクだけが大きくなってしまう。コストと利益の改善に繋がる“自主”は自主MD開発以外に有り得ないから、自主売場と称するものの実態はきちんと見なければならない。
 “自主”たるにはまず派遣店員に頼らない自主販売であること、委託商品に頼らない買い取りの自主編集であることが最低条件になる。さらに自主を深耕してメーカータイアップのPB開発に進み、メーカーに頼らないOEM調達のPB開発がゴールとなる。この骨格にセレクト商品を加えるか否かで、自主MD売場の性格が決まってくる。
 本誌前月号で指摘したように、自主MD売場で売場貸し以上の利益を得るには60%以上の値入れが必要になるが、コストの高いアパレルメーカー、とりわけ百貨店アパレルとタイアップしての開発ではそれは不可能。価格競争が熾烈化する今日、コストの低い名岐アパレルやOEMアパレルとの取り組みからスタートし、スペックを確立して商社経由や工場直のOEM調達に進まざるを得ない。
 今回、西武百貨店の14プロジェクト(婦人服、紳士服)を検証したが、多くが開発端緒ということもあって本格的な自主MD売場ばかりではないのが実態だ。
 14プロジェクト中、「ヴァリエ・ブティック」では100%が、「エッセンシャルライフ」では70%が、「クローズアップ・スタジオ」では30%が、「チューニング」では40%が委託だから、自主MD売場の最低条件を欠いている。「クラシック・アンティエ」と「ハロジェン」は他社PBだから正確には自主開発と言えないが、日本市場においては西武PBの役割を果たしているし、調達原価率もOEM調達に迫る。
 もっと突っ込んで、自主開発がメーカータイアップかOEM調達かという視点で見るなら、95%を三陽商会と組んだ「スーク」、70%をイトキン他三社と組んだ「クローズアップ・スタジオ」、60%をイトキンと組んだ「パラグラフ」、50%をアズノウアズと組んだ「ジャック・イン・ザ・キューブ」は収益面で課題が残るのではないか。その点ではOEM調達が95%の「アドレス」、同90%の「リミテッド・エディション」が突出しており、調達原価率も低く抑えられている。
 結局のところ、早期から自主MDに取り組んできた西武百貨店と言えども、自主MD売場の条件を総て満たしているのは試行錯誤を積み上げて進化してきた「アドレス」とノードストロムPBの「クラシック・アンティエ」「ハロジェン」だけで、他は特定メーカーとのタイアップや委託に部分的にしても依存しており、まだスタートラインについたばかりというのが実態だ。ただし、「ジャック・イン・ザ・キューブ」の楽しさと編集テク水準は拍手ものだし、「ブローケッジ」のセレクト編集系SPAの開発・編集手法の取り込みは百貨店離れしている。「クラシック・アンティエ」と「ハロジェン」にしても、そのVMD展開は本家ノードストロムを凌駕しているし、他プロジェクトでも商品の感性とVMDのレベルはすべてNB平場を大きく超えている。
   今回の“SP21”プロジェクトでは総じて顧客ニーズへの対応、商品の感度と品質、編集や陳列の魅力、販売力が最優先され、品質や感度を犠牲にしても値入れ率を取るといった安易な姿勢は見られない。長年の自主MD売場開発の反省に立ち、まずは顧客にとって魅力的な売場を開発するのが最優先で、値入れの確保はその実現を損なわない範囲で追及されている。
 それでも14プロジェクトの平均値入れ率は52.8%、粗利益率は40.8%が見込まれているから、2002年度に自主MD売場が全売上の15%を占めることになれば、同社の粗利益率を2000年2月期の27.8%から29.7%へ1.9ポイントも押し上げることになる。“SP21”プロジェクトは、経験を積んだ企業ならではの極めて洗練された戦略と評価すべきであろう。

収益力は見込めるか

 自主MD平場の調達体制を当初売価に対する調達原価率という物差しで見るなら、「アドレス」が39%と突出しており、開発体制の深耕度が伺える。「リミテッド・エディション」が42%で続き、以下「ハロジェン」、「ブローケッジ」が45%で並ぶ。自主開発の在庫リスクを考えればここまでが安全圏で、調達原価が50%を超えるようなら買取型の自主MDは収益が見込めない。委託商品を含む(30〜100%)売場では調達原価は48〜51%に達しており、自主MD型と自主&委託ミックス型に二分されている。
 完全買取の自主売場の場合、最終粗利益率(目標も含む)との関係でどの程度のマークダウン・ロスが発生しているか(見込まれているか)を計算して見たが、最低16.4%から最高27.4%、平均21.2%も発生している(すべて当初売価対比)。対して委託商品を30%以上含む売場の場合は最低10.7%(委託100%)、最高20.0%(委託40%)、平均15.9%に収まっている。
 販売人件費等の運営経費を売上対比20%(当初売価比15.8%)、売場貸しなら得られる歩合を同30%(当初売価比約23.7%)見るとすれば、完全買取ならマークダウン・ロスを21%見込んで、調達原価率は39.5%以下に抑えなければならないという計算になる。歩合見合いを抑えても、調達原価率45%程度が自主MD売場をやる分岐点と見るべきであろう。そこまで自主MDを深耕出来ないのなら、自主&委託ミックス型に割り切る方が安全という事になる。

自主MD売場の成功パターン

 自主MD売場を成功させるには、展開店舗数に適したMD編成と調達手法がキーになる。数店舗しかないのにOEM調達型のSPA体制を組んではロットも固定費も消化しきれないし、2ダースも展開するのにメーカータイアップ型の調達に依存してはコストメリットが得られない。
 数店舗しか展開出来ないのなら依託ブランドをコアに買い取りのセレクト編集で組むのが定石で、リスクを分散して品揃えの魅力を前に出すべきだ。値入れ率よりも商品回転を優先し、品揃えの感度と鮮度で売上を、交差比率で利益を稼ぐべきだろう。
 1ダース以上2ダース未満の展開ならメーカータイアップのオリジナルブランドをコアにセレクト編集を組むのが有利で、値入れも最低限は確保しながらセレクト編集の魅力で売上を稼げる。今回の西武百貨店の“SP21”プロジェクトで最も目立った手法だが、同社の展開店舗数を考えれば当然であろう。
 2ダース以上の展開ならOEM調達のオリジナルブランド単独、ないしはセレクト商品を加えた商品編成が可能になるが、百貨店の展開店舗数ではロットが限られるから価格訴求よりも価値訴求を重視せざるを得ない。2000年1月期でデパートメントストア型店舗が71店に達したノードストロムのPB「クラシック・アンティエ」と「ハロジェン」にしても、このスタンスで開発されている。西武百貨店とそごうが商品提携すれば当然、このステップへ進化する自主MD売場が増えていくはずだ。
 メジャーなSPAに張って正面から価格訴求するには百店単位の展開が必要になるが、それには大手でも二社や三社ではとても届かない大規模な連携が求められる。超高効率な基幹店舗は一店で数店分のロットを販売するから実際の必要店舗数はやや下回ると考えられるが、メジャーSPAに張れる調達コストと価格競争力を求めるなら全国の百貨店を二分、三分するような大規模な連携が不可避であろう。

自主MD売場のチェーン化が業界を再編してしまう

 そこで必然的な課題となるのが百貨店間の商品提携であり、三越と大丸、伊勢丹と阪急、西武とそごうといった提携が当然とならざるを得ない。これにノードストロムやフェデレーテッド等の外資デパートがからんで、地方百貨店から大手まで巻き込む提携や合併再編が急進していくのではないか。
 この流れは同時に、百貨店と大手アパレルの関係を決定的に変えてしまう。百貨店がメーカーを外してOEM調達の自主MD売場を増やしていく一方で大手アパレルのSPA戦略も加速していくから、箱売場は別として百貨店と大手アパレルの長きに渡った蜜月関係はついに終焉の刻を迎える。当然の別れが来ると私が何年も前から指摘してきたことが、ついに現実になっていく。恐らくは数年で、百貨店の組織も大手アパレルの事業体制も一変してしまうに違いない。

2000年10月号 『日本の百貨店幹部に告ぐ。高付加価値・低コスト構造への転換を急げ』
2000年 9月号 『スーパーストア/大型平場のレイアウト技法』
2000年 8月号 『価格破壊バトル“秋の陣”その現実と対策』
2000年 7月号 『最新注目SCに見るスーパーストアSPA業態の実力比較』
2000年 6月号 『SC出店環境の激変にかく対策せよ』
2000年 5月号 『ファイブフォックスに学ぶドメイン転換戦略』
2000年 3月号 『勝ち組ワールドの転機』
2000年 2月号 『“ユニクロ”vs“GAP”の全面対決が招く淘汰の日』