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ファッション販売2000年12月号

『無印神話崩壊の危機』

(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔


既存店売上に陰りが

 95年に店頭公開を果たして以来、順風満帆に成長を続けてきた良品計画に黄信号が灯っている。四月以降、『無印良品』の既存店売上が前年を割り込み続けているのだ。
 2000年8月期中間決算(単体)は、売場面積が20%増加したにもかかわらず売上高が6.6%増に止まり、2001年2月通期の売上予測を24%増から12.4%増へ下方修正するはめになった。中間期の既存直営店売上は衣料品の11.1%減が響いて5%減少、ライセンス店舗の既存店平均は7.3%減少しており、アイテム拡張と店舗大型化の積極策に何らかの問題が生じているのは間違いない。
 店舗の大型化(直営店平均で前期の208.2坪から228.8坪へ)で営業経費率が若干だが圧縮され、直営店売上比率の向上(同52%から56.8%へ)で粗利益率も0.7ポイント改善され、営業利益率は前中間期比で1ポイント向上と収益面では陰りは見られないが、売上の中身を見ると陰りは否めない。直営店の商品単価は98.3%と微減、客単価も100.9%と微増に収まったが、既存店客数が95.5%と減少、坪当たりでは13%も減少し、アイテム拡張と店舗大型化が順当に売上に繋がっていないことが明らかになった。
 実際、前期の4232品目から5959品目へと40.8%も拡大し、単純計算上(全店が全品目を扱っている訳ではない)の坪当たり品目数も20.3から26と密度も上がっているにもかかわらず、直営店の月坪販売効率は29.4万円から25.1万円へと15%近くも低下している。分野別に見ると、992品目から1032品目へ4%微増した衣料・衣料雑貨の坪販売効率は約20%、2785品目から3519品目へ26.3%増加した生活雑貨は10.5%、455品目から1408品目へ3.1倍にも増えた食品は約16%も低下したと推計されるのだ。
 店舗の大型化を十分に埋め切れるはずの品目拡充を行っているにもかかわらず、すべての分野で大幅に販売効率が低下している以上、一品一品の魅力か業態そのものの魅力、あるいはその両方にマーケットが疑問を呈したと受け取るしかないだろう。
 収益面では店舗大型化と直営店売上比率向上(推計だが、直営店の粗利率は51.5%と卸の28.2%より格段に厚い)、今中間期に落とした衣料品売上比率の回復(利幅の薄い卸も含めて衣料品の粗利益率は48.2%と、生活雑貨の40.7%、食品の28.1%と比べて格段に厚い)で2001年2月本決算に不安はないが、客数の減少と効率の低下が今後も続けば長期的にはボディブローが効いてくる。
 客数の減少とは人気の低下であり、店舗の大型化どころか今後の出店ペースにも響いてくる。その人気低下を顕著に示す社内調査資料が存在するのだ。
 

無印神話の崩壊を暗示する顧客調査結果

 良品計画では毎年、定期的に顧客調査を行っているが、過去三年間の推移を見ると顧客の満足度が急速に低下している。
 商品の満足度が、一番ましな食品で前年から4ポイント、二年前からは9ポイント低下して44%、生活雑貨は前年から7ポイント、二年前からは12ポイント低下して41%、衣料品に至っては前年から8ポイント、二年前からは14ポイントも低下して25%という低水準になってしまった。商品購入率も食品で6.2ポイント、衣料品で1.8ポイント低下している(生活雑貨は上昇)。店舗総体の評価も前年から9ポイントも低下して51%と過半割れ寸前に落ち込んでいるから、大型化によるライフスタイル提案も無印らしからぬディスプレイ演出も顧客の評価を得られなかったことになる。
 この結果から見れば無印の人気凋落は明らかで、それも一品一品への失望の積み重ねによる深刻なものと推察される。急激な品目数の拡大で一品一品にこだわった開発力が希薄化し、こだわり神話を抱いてきた顧客の失望を招いたのではないか。
 この調査では顧客の世代構成も報告しているが、“心中したい”とする団塊ジュニア層こそ18%と前年から4ポイント増えたものの、十代後半層は二年間で16ポイントも減って24%に落ち込み、一方で三十代、四十代は二年間で26%に倍増している。アダルト層の支持が高まる一方で、ヤング層が急速に離反しているのだ。二年前に比べれば女性比率が4.7ポイント低下している事も気になる。
 不思議に感じられるのが価格に対する評価で、インテリアの26%を除く全カテゴリーで“高いと感じる”回答は二割未満に収まっている。“高いと感じる商品はない”と32%の人が回答しているが、三十代以上の男性ではそれが60%以上に達している。価格抵抗感は若い女性ほど強く、大人の男性ほど弱いという傾向だが、それがヤング層や女性の離反に繋がっているとしたら先が恐ろしい。
 極めて直観的な見方だが、急速なメジャー化で無印の神話性が薄れ、かつての神話を知らないヤング層、とりわけ若い女性層から周囲のスーパーストアと同列に比較する見方が広がっているのではないか。すなわち、無印は神話的高みからもろに競争に晒される現世に降りてしまったのだ。

何が無印神話を崩壊させたのか

 急速に品目数が増えたとはいえ、良品計画の商品開発体制が大きく崩れた様子はない。衣料品では社内にデザイナー、パターンナーを抱えて全て社内で仕様書を作成し(デザインとパターンは外注も活用)、商社を経由あるいは工場直接に完全買い取りでOEM調達しているし、30人ほどのスタッフが品質と納期の管理にあたっている。製品化にあたっては担当部長と永澤陽一氏が細かく目を光らせており、メーカーに頼ったり商社やOEMアパレルに丸投げはしていない。
 それでも品目数の急増で開発が手薄になった事は否めないし、店舗数の拡大ほど一品ロットが伸びず(食品などは逆に急減している)、仕様やコストを追求しきれなかった面もあろう。が、それだけで、ここまで顧客の失望を買うことになるのだろうか。顧客の失望はもっと全体的な事、つまり会社の姿勢に不信感を持った事に発するのではないだろうか。
 ライフスタイル提案を志向してこだわりを表現仕切れない品目にまで手を広げたり、無駄な機能や装飾を削ぎ落としたゆえに安いはずの価格が割高だったり、ストイックなほどに必然の品目を棚割るに徹するはずの売場にディスプレイが持ち込まれたりという変貌に、顧客が生理的な嫌悪感を持ったのではないか。不器用なほどにミニマリズムを追求する無印が好きだったのに、時代のトレンドを追ってライバルと同じ土俵に降りていく無印を見て共感を失ったのだ。

21世紀の無印神話を創造せよ

 そもそも無印はNBの過剰な機能と装飾性、包装や宣伝、流通の無駄を否定する所から出発して神格化されたPBであり、そのコンセプトが背反的にブランド化した希有な例として注目されてきた。そのミニマリズムは戦前のバウハウス運動を継承して近代デザイン史上に位置付けられるほどのインパクトを持ったもので、70年代のチープ&シックの精神をも受け継いでいる。
 そのようなデザイン文明に立脚した無印は発展過程で様々な局面に対応してきたが、根底からそのアイデンティティを疑われる事はかつてなかった。その神話が近年の路線変更で崩れつつあるとしたら、現在の戦略を全面的に見直さなくてはならなくなる。
 最近の良品計画の戦略はグローバルな競争に直面するSPAとしてはメジャートレンドに乗ったものだが、それは同時に神話中の企業を生き馬の目を抜く現世に降ろしてしまうことにもなる。その結果が価格とスケールの競争になってしまったが、直営87店舗、ライセンスストアを加えても253店で6000品目を扱う中堅チェーンにとっては規模の不利は否めない。衣料品の生産ロットひとつ取ってみても、ユニクロの十分の一以下なのだ。
 限られた売上とスタッフで6000近い品目を開発・調達していけば、生産ロットの大きなライバルと本質的に差別化するのは難しいから、価格と量の戦いに巻き込まれ、卸業を並行するゆえのNB的なコスト構造の高さを露呈する結果となってしまう。ましてや無印型GMSを目指すとなれば、ますます品目が肥大化して味が薄まり、メジャー間競争に埋没してマークス&スペンサー的な窮地に追い込まれかねない。
 卸も含めての粗利益率は衣料雑貨で48.2%、生活雑貨で40.7%、食品で28.1%、全体で42.1%だが、直営店のみだと51.5%と推計される。この水準はSPAとしては順当かも知れないが、価格を訴求するゼネラルマーチャンダイザーとしては危機的に高すぎる。卸業を並行するゆえのNB的な割高さを温存したままGMS化していけば、間違いなく破綻が待ち受けている。
 同質化による価格競争からは離脱すべきだが、価格の問題は放置できない課題でもある。『NBよりわけあって安い』を原点に神話を確立してきた無印にとって、NB化して割高になりメジャーSPAのPBに追われる状況は一刻も早く終わらせなければならない。素材と工場の集約、仕様の深耕と生産プロセスの追及、品目の絞り込み、そして卸事業の抜本的な再構築によって、『わけあって安い』と『削ぎ落としたこだわり仕様』の両立を果たし、21世紀の無印神話を確立すべきである。
 今の無印の陰りは自らの本質を忘れてトレンドを追った経営陣の錯覚に起因するものであり、一刻も早い原点回帰が待たれる。大型化戦略と品目拡大に歯止めをかけ、一品にこだわった開発で無印神話を復活させる。それが無印良品のあるべき姿ではないだろうか。

2000年12月号-1 『最新SC診断 イオン岡崎SCと岡崎西武の完成度』
2000年11月号 『西武百貨店“SP21”プロジェクトに見る百貨店自主MD売場の成功条件』
2000年10月号 『日本の百貨店幹部に告ぐ。高付加価値・低コスト構造への転換を急げ』
2000年 9月号 『スーパーストア/大型平場のレイアウト技法』
2000年 8月号 『価格破壊バトル“秋の陣”その現実と対策』
2000年 7月号 『最新注目SCに見るスーパーストアSPA業態の実力比較』
2000年 6月号 『SC出店環境の激変にかく対策せよ』
2000年 5月号 『ファイブフォックスに学ぶドメイン転換戦略』
2000年 3月号 『勝ち組ワールドの転機』
2000年 2月号 『“ユニクロ”vs“GAP”の全面対決が招く淘汰の日』