|
|
ファッション販売2001年1月号『SPAの教科書「GAP」の凋落とその要因』(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔「GAP」の凋落第三四半期に入って事態はさらに悪化。8月、9月と連続して全業態の既存店売上が前年を割り、全社の既存店売上も8月が−14%、9月が−8%と危機的な状況に陥った(10月は−2%)。第三四半期トータルでも既存店が−8%まで落ち込み、純利益は40.8%減と約8年ぶりの減益に陥った。 中でも深刻なのが「OLD NAVY」と海外部門で、前者の8月既存店売上など前年の4分の3にまで落ち込んでしまった。「GAP」(KIDSを含む)がほとんどの海外部門の落ち込みはそれほどではないが、日本市場に限れば「OLD NAVY」以上の落ち込みに苦しんでいると見られる。 ギャップ・ジャパンは売上を発表していないし、出店先のデベロッパーに出店契約で売上情報の守秘を義務付けているケースも多く、公式には一部の店舗しか売上を掴めない。が、文書では公開されないものの口頭ではテナントが知り得るようで、「GAP」の売上は周辺テナントから流れてくる。 それによれば、天敵たる「ユニクロ」の首都圏での多店化とともに、「GAP」の売上は危機的なほど急落している。「ユニクロ」が3月以降、同じSC内や周辺に出店した神奈川地区のケースなど、それまでの増ペースから一気に二桁減に転落。月とともに落ち込み巾が拡大し、前年の六掛け、五掛けにまで落ち込む店も出てきている。千葉地区でも8月以降、売上が前年の三分の二に落ち込んだ店がある。開設から一年未満でまだ前年比が出ない新店でも、8月以降、大きくペースを落とす店が増えているようだ。 都心部ではそれほどの落ち込みは見られないが、「ユニクロ」の都心での多店化とともにマークダウンが急増し、過半がマークダウンという店さえ見られる。フラッグシップたる原宿店も例外ではなく、マークダウンの氾濫でマイナスイメージを発信している状況だ。売上の急落で販売スタッフにもプレッシャーがかかっているようで、アプローチが過度に積極的になり、かつてのフリーな雰囲気も失われてしまった。 月を追って不振が深刻化していく状況に歯止めを掛けられないと、超優遇の出店条件であるだけにデベロッパーの離反は避けられない。当然、出店計画も狂ってくるし、撤退を迫られる店も出てくるだろう。ここまでの危機的状況に「GAP」を追い詰めたのは、いったい何だったのだろうか。 「GAP」凋落の要因加えて、この一年ほどの間に衣料品の市場価格が二割以上も急落するという価格訂正局面を経、その火付け役となった「ユニクロ」に包囲されるという状況では、米国価格と同水準に価格を下げるしか選択はなかったはずだ。それをしなかった以上、既存店売上が急落することは火を見るよりも明らかであった。 第二の要因が調達戦略の失策だ。ギャップ社は4業態を展開して年商一兆二千億円を超えるとは言え、1200もの工場から調達している。これに対してファーストリテイリング社は1業態で年商もギャップ社の4分の1ほどだが、売上が倍増している中で60余に調達先工場を絞り込んでいる。それも品質追求を計算して特定の縫製機器が揃っている優良工場ばかりを選んでいるし、商社筋情報を総合すれば意図的に高く買い取っている。つまり、工場に儲けさせて品質改善と生産能力拡張の設備投資を後押ししているのだ。これは明らかに系列化戦略であり、縫製段階の次は紡績段階の系列化を急いでいるから、品質面ではギャップ社が追い付きようがないほど先へ行っている。 これに対してギャップ社は調達先工場数でも明らかなように、個々の商品毎にコストや納期、品質を競わせるオープン調達戦略を採っている。その分、低コストに調達できるかも知れないが、品質と補給力の不安定さは否めない。本誌の商品比較特集でも「GAP」商品の素材と縫製品質の不安定さ(良い品も悪い品もある)は明らかだし、「ユニクロ」の素材と縫製品質の高さと安定性とは比較すべくもない。特に縫製始末が縫製機器によって特定されてしまうような仕様において(バインダーミシン等)、両者の差は際立っている。 「ユニクロ」の商品仕様がファッション的な価値感でも優秀かは疑問の余地があるが、品質を安定させ補給力、生産力を向上させていく系列化戦略においては、ギャップ社は明らかに後手をとってしまった。それは日本市場だけの問題ではなく米国市場においても、「GAP」を追い上げるアメリカン・イーグルやアバークロンビー&フィッチ等との戦いで優劣を少なからず左右する要素となっている。オープン調達が裏目に出ている最たるものが「OLD NAVY」で、その品質の不安定さは明らかに中産白人層を遠ざけているから、ギャップ社にとっては深刻な問題だ。 この他にも「GAP」については、米国市場では「OLD NAVY」との自社競合、ベーシック商品が飽きられてのYゼネレーション(ヤング層)の離反、逆に日本市場では価格の高さもあってニューファミリー層の離反、相次いだキャンペーンの空振り等が指摘されている。 「OLD NAVY」との自社競合については、最近のリージョナルSCでは「GAP」と「OLD NAVY」を並べて出店するケースが増えているほどだから、ギャップ社側は棲み分けが出来ている(棲み分けられる)と割り切っているようだ。ベーシック政策の転換については、ファッション性を追って業績が低迷した93年から95年の苦境の記憶がまだ新しく、大きく踏み出すとは考え難い。恐らくは、今秋から一部で手掛けているような柄物企画のリミックス的投入、「バナナリパブリック」で成功しているシリコンバレースタイル(カジュアルなオフィススタイル)の拡張等で解決を図るものと思われる。が、キャンペーンの空振り等はギャップ社の現経営陣とマネジメントスタイルから発している問題であり、早期の解決は困難と考えられる。 露呈したギャップ社のマネジメント体質各店在庫の消化進行を管理するのもマークダウンや店間移動の指示をするのもシスコの本社だけで、各店舗は指示通りにオペレーションするだけだ。リージョナルマネージャーはこれらについて進言することが出来るが、決定と指示はシスコの本社に集中されている。日本市場における価格政策も本社が指示した利益計画の枠内で対応するしかなく、「ユニクロ」の脅威も日本市場のローカル問題として訴えるしかなかった。 ゆえに高価格政策は是正されず、「ユニクロ」を国内で抑止して海外進出を食い止める策も抗じられず、狼を野に放つ結果となってしまった。私がギャップ社のCEOなら、「GAP」の価格を半額にしても「ユニクロ」の勢いを国内に留めることに全力を尽くしたであろう。 このようなトップダウン体質ゆえに、「ユニクロ」に押されて人気が急落していく局面においても有効な対策を打つことが出来ず、雪崩れを打つように売上が急落していったのだ。相次いだキャンペーンの空振りにしても、政策決定がミッキーに集中して彼の世代感覚の枠を出られず、米国のYゼネレーションはもちろん、日本の若い顧客たちの失笑を買う結果となっている。 「ユニクロ」が98年までの低迷期から、ギャップ社型のトップダウン体質を部分的に訂正して浮上のきっかけとしたように、ギャップ社も店舗に多少は権限を与えて機動性と活力を持たせ、本社と店舗が一体となって動ける組織への転換を図るべきではないか。 狼狽するデベロッパーギャップ・ジャパンの要求する出店条件は極端なもので、保証金、敷金はゼロであることはもちろん、家賃は共益費、販促費等すべてを込んで売上の8%以下、最低保証は無し。内装費の半額以上をデベロッパーに負担させる、というのがスタンダードな条件と聞く。ギャップ・ジャパンは契約内容の守秘を契約条項に入れているため、各デベロッパーが何処までその条件を呑んでいるかは推察するしかないが、国内テナントからすれば怒りを禁じ得ないほどの優遇条件であることには変り無い。 最低保証は無いから、売上が急落すればデベロッパーの手にする家賃もストレートに減ってしまう。それではたまらないから条件を変更したり出ていただこうとなれば、凄腕弁護士が練り上げたペナルティ条項が待ち受けている。契約内容自体が守秘を義務づけられている以上、その条項は知るべくもないが、性善主義の日本式契約では対抗し得ない恐い条項がズラリと並んでいるはずだ。外資テナントの導入にあたっては弁護士費用をケチってはならない、という教訓にしてほしい。 すでに出店させてしまったデベロッパーにとっては、売上が回復することを祈るしか打つ手は存在しないが、「ユニクロ」の出店が進めば「GAP」の売上はさらに落ちていく。同じSC内に「ユニクロ」を出店させないのが最低限の対応のはずだが、それをやってしまうデペロッパーが現実に存在する。いったい、「ユニクロ」が稼ぐ売上と既存テナントが食われて落ちる売上の損得を計算する良識はないのだろうか。 「GAP」の回復は何時になるかその後、96年以降のベーシック回帰で業績が上向き、99年前半には既存店が二桁増と頂点を打っているが、今回の業績悪化は第一次黄金期後の低迷期に匹敵する問題を抱えている。加えて、グローバルブランド戦略を押し進めた結果、当時より高コストな体質になっている事も指摘しなければならない。とすれば、回復には3年以上もかかることになりかねない。もっと悲観的に見てミッキー体制の限界が訪れたのだとすれば、回復の時期はまったく読めなくなってしまう。 日本市場では当時の米国には存在しなかった「ユニクロ」という天敵の包囲網が強まっていくから、米国市場で回復に転じたとしても日本市場での回復は相当先になってしまう。「ユニクロ」抑止に「OLD NAVY」を投入しても、品質と価格の差を考えれば決定打とはなり得ないし、「GAP」をもっと追い詰める結果にもなりかねない。すべてはもはや手遅れなのだ。 「ユニクロ」が英国で急速に多店化していけば英国での業績も失速を免れないし、その後は当然、米国本土への「ユニクロ」上陸という最悪のシナリオが待っている。恐らくは2005年頃になると思われるそのXデイまでにギャップ社の業績が回復しているか否かで、同社の命運が決してしまうであろう。 |
![]() | |
| 2000年12月号-1 | 『最新SC診断 イオン岡崎SCと岡崎西武の完成度』 |
| 2000年12月号-2 | 『無印神話崩壊の危機』 |
| 2000年11月号 | 『西武百貨店“SP21”プロジェクトに見る百貨店自主MD売場の成功条件』 |
| 2000年10月号 | 『日本の百貨店幹部に告ぐ。高付加価値・低コスト構造への転換を急げ』 |
| 2000年 9月号 | 『スーパーストア/大型平場のレイアウト技法』 |
| 2000年 8月号 | 『価格破壊バトル“秋の陣”その現実と対策』 |
| 2000年 7月号 | 『最新注目SCに見るスーパーストアSPA業態の実力比較』 |
| 2000年 6月号 | 『SC出店環境の激変にかく対策せよ』 |
| 2000年 5月号 | 『ファイブフォックスに学ぶドメイン転換戦略』 |
| 2000年 3月号 | 『勝ち組ワールドの転機』 |
| 2000年 2月号 | 『“ユニクロ”vs“GAP”の全面対決が招く淘汰の日』 |