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ファッション販売2003年6月号

『岐路に立つビームス』

(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔


 

あのビームスが失速

 メーカー系セレクトショップやセレクトまがいのSPAブランドまで出揃ってセレクトブームも頂点に達した感があるが、前期まで大手五家の筆頭を走ってきたビームスにただならぬ変調が見られる。ユナイテッドアローズ、トゥモローランドが快走を続ける一方で昨年3月以降、ビームスは水面下に沈んだまま。しかも、昨9月以降は落ち込みが一段と深まっている。いったいビームスに何が起こっているのだろうか。
 ローライズデニムのブレイクを契機に付加加工、後加工の効いた手工業製品へとカジュアルの流れが一変し、セレクトブームに火が付いたのは2001年3月だったが、ビームスは半歩速く1月にはそれまでの低迷期を離脱。2001年9月にはユナイテッドアローズに迫る勢いを見せたもののその後は急減速し、2002年3月以降は水面下で低迷している。
 この流れを見る限り、今回のセレクトブームには逸早く乗ったもののストリートを追い過ぎ、ストリート志向と後加工ブームが頂点を打つとともに急速に勢いを失って、マーケットのキレイ目シフトが強まるとともに低迷を深めていったと推察される。加えて、ストリート志向で他社に先行したコラボレーションMDやTシャツの落ち込みを埋める新たなMDを打ち出せなかった事も足を引っ張った。
 ユナイテッドアローズやトゥモローランドがストリートを深追いせず、逸早く『キレイ、品格、安心』路線に修正したのに対し、ビームスはストリートの先鋭層からマス化していく流れを捉える手法が自己目的化して路線を修正出来ず、低迷を深めていったのではないか。セレクト五家は近似した路線を走ってきたという見方も一部にあるが、各社のオリジンとするカルチャーとマーケティングははっきり異なっており、マーケットの流れが変る局面では明暗が別れる。
 結果として、ビームスは期中10店も出店しながら既存店の売上減をカバーし切れず、2003年2月決算では前期の317億円から300億円を切るまで売上が減少したと見られる。好調の続くユナイテッドアローズは2003年3月期の売上を約340億円と見込んでいるから、ビームスはついに五家筆頭の座を失った事になる。

動物園組織の限界を露呈

 このようなマーケット変化は常に起こっているし、それをリードする事によってビームスは成長して来たはずだ。ビームス独特の現場主導型組織が他社の追従を許さない機動性を発揮してストリートの変化を先取りし、設楽氏がサイバー、イノベーター、オピニオンと呼ぶ先鋭な顧客を捉えてきたのだ。では、今回はどうして外してしまったのだろうか。
 一言で言えばストリートそのものがマーケットの主導権を失ったのが根本要因であり、『ストリートの先鋭層からマス化していく流れを機動的に捉えるマーケティングとマーチャンダイジング』というビームスのビジネスモデルそのものが時流から外れてしまったと見るべきだ。
 サイバーやイノベーターをどんなに注視しても、彼等のトレンドがオピニオンに流れていかないとしたら、ビームスのマーケティングは成立しない。一昨年春から昨年の春先までをピークとしたストリート志向は未だ欧州のコレクションに残像が残るとは言え、日本のマーケットは既にストリートを離れて『キレイ、品格、安心』という正反対の方向に走っている。それ自体は先の見えない殺伐とした世情下で日本独自のスタイリング嗜好として台頭したものだが、トラディショナルとモード、カジュアルとドレスが融合して新たな創造性と完成度を志向する点ではグローバルなコレクショントレンドと通底している。その奔流下では、ストリートのトレンドはモードに吸収されるディティールでしかない。
 ストリートが主導権を失えば、その機動的な取込みに特化した『動物園』とまで称される分権的調達組織は空転するしかない。ストリートがトレンドの源泉であった時はカリスマバイヤー達の個人プレーが顧客を惹き付けたが、グローバルトレンドとも本質では通底する『キレイ、品格、安心』という今の奔流下では、トップが調達政策を戦略的に指揮しないとマーケットは捉えられない。
 とは言え、永年に渡る『動物園』経営下で調達組織の統制は効かず、組織で動ける若手バイヤーがほとんど育っていない。業態は放慢と言うしかないほど多様化しており、主力の「ビームス」など業態としてまとめきれない状態になっている。
 セレクトショップのチェーン・オペレーションは個店対応を重視して2ダースまでに止めるという不文律があるが、それは配分とシーズナルな運用を意味するものであって、チェーンとしての品揃えパターンや調達の集中を軽視するものでは決してない。それがきちんと出来ているユナイテッドアローズの強さと放慢に流れてしまったビームスの脆さを見較べれば、今のビームスの危機がどれほど深刻なものか理解されよう。
 ビームスはストリート・カルチャーのパワーを背景にカリスマバイヤーの個人プレイで成長してきた企業であって、組織マネジメントや経営戦略には秀でた点が見られない。ライバル企業の幹部の中には、『バイヤーにはカリスマ性があっても経営者にはカリスマ性がない』とまで言い切る人もいる。そのような企業がひとたび本質的な危機に直面すれば混乱は避けられず、回復の目処も立たなくなる。では、ビームスはこのまま転落していくのだろうか。 

セレクトショップの変容

 大手セレクトショップが意図してリミックスのスタイリングを訴求するようになったのは90年代末期以降の事であり、それ以前はセレクトをコアにフレンチやクラシコイタリア、ヴィンテージ等で味付けした単品コーディネイトの域を出るものではなかった。さらに遡れば、“渋カジ”が盛り上がった87年頃から90年代始めまでは“紺ブレ”に象徴される定形ルックを売る単品カジュアル店に過ぎず、その原点はレア物のインポートカジュアルやそのコピー商品を単品訴求するマイナーな存在であった。
 ストリートを取り込むとかリードするといった先鋭な存在となったのも、インポートのデザイナーブランドを軸にリミックスを訴求するといった洗練された存在となったも、ほんの4〜5年前からの事であり、遡ればマーケットの進化とともに何度も変容してきた事が解る。ということは、マーケットが変ればセレクトショップもまた変容していけばよいという事だ。

 

岐路に立つビームス

 『ストリートの先鋭層からマス化していく流れを機動的に捉えるマーケティングとマーチャンダイジング』というビームスのビジネスモデルも、かつては日本でなくヨーロッパのストリートを、そのまた前は米国のストリートを源泉としていたはずで、TOKYOストリートが勢いを失ってもまた新たな源泉を見つければ済むはずだ。が、ビームスはそれでは済まない規模になってしまっている。その事に気付かないままストリートを源泉としたマーケティングとマーチャンダイジングに固執した所に、もうひとつの本質的な敗因がある。
 『新たな源泉を見つけて半ばマス化した事業規模に見合うビジネスモデルに転換していく』というのがビームス再興の基本シナリオだが、そのためには既存の店舗展開を抜本から再編しなければならないし、調達組織からトップマネジメントまでゼロからの組み直しが避けられない。おそらくは変容と原点回帰の間を迷走して相当の時間と血液を消費し、事業規模のシュリンクが避けられないだろう。そのトンネルを抜けて再びセレクト首位の座を奪回するのか、はたまた事業規模の拡大を求めずストリートの帝王として君臨するのか、ビームスはまさに命運を分ける岐路に立っている。 





※誌名のないバックナンバーは「ファッション販売」です。

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