home
小島健輔の最新論文

販売革新10月号
『GMS衣料再生への処方箋』
“日米4強の衣料売場に戦略構図を見る”

(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔
 8月末から9月第一週にかけてウォルマート、ターゲット、イトーヨーカドー、ジャスコという日米4強SuC/GMSの衣料売場を徹底調査し、各社のMDと売場造りから衣料部門の戦略構図を解き明かしてみた(米国はダラス地区/日本は関東地区のそれぞれ複数店舗)。

ウォルマートの大変身

 ターゲットは都市圏の中産階級を狙ったファッションコンシャスなアップスケールDSとして百貨店市場で名の知れたブランドのNPBやPBを中核に訴求、ウォルマートはローカル/都市周辺の中低所得層狙いの質実なスタンダードDSとして量販NB/BB(ベンダーブランド)を低価格訴求というイメージが定着し、両者はそれぞれの強みを活かして棲み分けてきた。
 ファッション関連売場のスケールもターゲットの方がひと回り大きく、明らかに位置付けが異なっていた。顧客世代もターゲットが30〜40代のコンテンポラリー世代を中核としていたのに対し、ウォルマートはひと回り上のベビーブーマー世代を中核としていた。売場の造り方にしても、ターゲットがテイスト分類とブランド訴求を一体にして強力に訴求するのに対し、ウォルマートはカテゴリー分類主導でブランドやテイストの訴求がほとんどなかった。ターゲットが売場区画のパーティションを活かすなどして派手なビジュアルボードを連打するのに対し、ウォルマートはプライスボードのオンパレードに終止して地味な印象を免れなかった。
 ところがである。ウォルマートはこの半年で一気に変身し、『アレ、ここはターゲットだったっけ』と錯覚してしまうほどファッショナブルになってしまったのだ。ウォルマートに変身を強いた要因は、1)都市部で両者が激突するケースが急増、2)今8月まで26ヶ月連続で既存店売上伸び率がターゲットを下回った、3)ウォルマートの中核顧客である中低所得層と上位層との所得伸び率格差が拡大した、の3点であった。
 ダラスの新型店舗では高い天井から自然光をふんだんに取り入れ、ターゲットより1000ケルビンは白い蛍光灯照明と白く吹き付けた天井/白っぽいPタイルの床材の反射効果で明るく清潔な環境を演出していたのが印象的だった(イトーヨーカドーの改装店舗でも天井白塗装を活用している)。パーティションなどを活用したビジュアルボード演出は限定的でターゲットほどの派手さはなかったが(グローバルPBの「George」だけはターゲット流に演出)、売場分類はレディスもメンズもテイスト⇒ブランド⇒カテゴリーというターゲット型に一変され、メンズはカテゴリー⇒ブランドという未整理状態から脱却出来ないでいるターゲットを追い越した。
 「George」に加えて「FADED GLORY」「no boundaries」「WHITE STAG」「ATHLETIC WORKS」などのPB、「DANSKIN  NOW」「STARTER」などのNPBも揃い、しかも各ブランドのテイストや役割がきちんと整理されて売場分類と整合している。個々のMDもVMDのインパクトこそ欠くがターゲットより集約され重複も少なく、商品計画から開発・調達プロセスまで正確にコントロールされている。もはやPB比率はターゲットを凌駕し(NPBはまだ少ないが)、NPB/PBのターゲットvs.量販NB/BBのウォルマートという業界通年は崩壊したと言ってよいだろう。

ウォルマートの残された課題

 とは言え、それでもウォルマートとターゲットの明白な違いは残っている。それは両者の顧客世代構成と価格帯の違いだ。ウォルマートは大量のPB/NPB導入とそれらをテイスト分類と一致させた明確な構成によって極めてターゲット的でモダンな売場に変身したが、トレンド性の薄い地味な商品企画、ベビーブーマー世代中心のアダルトな品揃えは大きくは変わっていない。明るくモダンな売場への変身で中産層の取り込みは進んでも、若い世代の取り込みはこれからの課題として残されている。
 ロープライスのインパクトも少しも変わっていない。ターゲットのように端末を99に統一せず、34、37、42、44、48〜中略〜92、93、96と多様な端末価格を設定して1セントでも安くという努力を表現するのがウォルマート流。類似商品で比較すればターゲットよりツーラインはロープライスで、ほぼ75掛けの価格に設定されている。プライスレンジで言えば、ターゲットがアパーポピュラー中心にロワーポピュラーを裾値として揃えているのに対し、ウォルマートはロワーポピュラーを中心にアパーポピュラーを上値として揃えている。同一品質/仕様商品は存在しないが、それに近い規準で比較してもウォルマートの方が15%程度は割安に感じられる。
 強大なグローバルソーシング力を背景としたロープライスの強みは変わらずに、ターゲット流のモダンな売場環境とテイスト分類、PB/NPBの整然とした大量導入を果たしたウォルマートにとって残された課題は、1)トレンディな商品企画とセレブなパワーネイムNPBによるコンテンポラリー世代の取り込み、2)同一ソーシング上でのシルエットと面仕上げの地域文化対応(「バナナリパブリック」の日本進出MD手法に注目)、3)企画・開発サイクルの短縮とディティール替え/面仕上げ替え短サイクル調達体制、4)ターゲット流のビジュアルボード・プロモーション+ルック訴求VMDなのではないだろうか。
 いずれもウォルマートが決断しさえすれば短期で解決出来る課題であり、それらが実現すれば北米市場で新たな成長神話を手に入れるのみならず、日本市場での西友の復活も約束される。恐らくは韓国、中国でも断トツ優位なポジションを手にする事が出来るに違いない。

業革路線を突き詰めるイトーヨーカドー

 モール戦略に踏み出したアリオ蘇我店(15,500平米/衣料関連8,055平米)、三郷店(15,140平米)、藤巻チームの手が入った改装店の大宮店(13,500平米)、溝口店(8,271平米)とイトーヨーカドーの衣料戦略を注視して来たが、秋物が揃った段階で路線は一段と鮮明になった。イトーヨーカドーの業革は手法論として藤巻チームを巻き込み、鈴木敏文思想がさらに突き詰められている。
 アリオ蘇我店、三郷店は大型店だが過渡期の性格が強くやや片寄った構成である事は否めず、ニュータイプにフル改装されたとは言え大宮店の衣料部門はコンパクトに過ぎる。溝口店は駅裏小商圏コミュニティ立地のコンパクト店舗にもかかわらず、衣料部門はほぼ2層分に相当する構成(それでもジャスコ標準店の6掛けに留まる)が組まれていた。
 大宮店/溝口店に共通して実感されたのは、1)最近の百貨店の統一環境平場的売場環境、2)コアターゲット/テイスト別に整理集約された売場編成、3)PBカセットを前面に打ち出しながらもBBカセットやNBコーナー(量販メーカーのセカンドライン中心)でバランスをとった調達構成、4)上下各一型で組まれたルックカセットを中核としたPBの極端な集約MD、5)アバーポピュラー〜ロワーモデレートのコアプライスに絞られたプライスレンジである。
 ニュータイプの什器システムはサイズ/機能/デザインが完璧に統一され、婦人/紳士/子供にかかわらず平置きテーブルは1段目50cm/2段目75cm/3段目100cm、システム什器(120cm巾の背面1−2−1ガチャ方式)は135cmに高さが統一されていた。百貨店の統一環境平場的印象は什器仕様の統一に加え、テーブル什器やシステム什器側面のウッドシール張りコンパネが寄与していると思われる。4000k蛍光灯+5000kHQI(食品は5000k蛍光灯+3000kハロゲン)の照明は天井の白塗装もあいまって明るくテンションがあるが、抑揚を欠く平板な印象を否めなかった。百貨店と異なるのは照明に加え、テーブル什器上のディスプレイが低く統一されて韻律もインパクトも欠いていた事、システム什器上のIPがすべてカットされていた事である。規律と抑制が効き過ぎて華やぎや量感が削がれていたのは、まさか藤巻チームの本意ではあるまい。
 婦人服を例にとれば、ジーニングカジュアル/コンテンポラリーカジュアル/同ドレス・コーディネイト/ミセスカジュアル/同ドレスとキッチリとターゲット/シーン/テイストを絞って区分け、隙間にあたる客層やテイストはバッサリと切り捨てている。フォーマルやミセスLサイズ、キャラクターなどは量販メーカーのセカンドラインNBコーナー依存に割り切っており、自前のMDは消化が読める安全パイに留めている。
 レディスではPBを飛躍的に拡大してBBを圧縮したが(両者はほぼ等量に見えた)、多様なPBが集約されないまま売場の各所に散在しており、パワーネイムNPBのコーナー展開とビジュアル・プロモーションを仕掛けるというブランディング戦略にはほど遠い。メンズでもBBが縮小されてPBが増えたがNB依存比率が格段に高く、PB比率はレディスの6掛け程度に留まっている。
 PBの多くは上下各一型で組まれたルックカセットに組まれ、おおむね坪あたり2型に絞られているが、PBカセット間やBBカセット(これも同3〜4型に集約)との類似品重複が目立った。型数が限定されているからディティール展開のバラエティもなく、客層もテイストもルックも極端に絞った品揃えだけに、この類似品重複は痛いミスだったのではないか。
 価格もジャスコがアパーポピュラーからロワーモデレートまでカバーしてライン数も多いのに対し、イトーヨーカドーはロワーモデレートを中核にアパーポピュラーを裾としてライン数も絞っている(どちにもNBやセレブデニムを除く)。

縮小再生産の業革MDは必ずや行き詰まる

 何もかも絞って効率的な業革MDに徹しているのは解るが、ここまで会社都合で顧客とニーズを切り捨てては売上は縮小再生産にならざるを得ない。それでも業革MDを押し進めるのは消化率と粗利益率の改善が著しいからであろう。決算書を見る限り衣料部門の粗利益率は04年2月期までうなぎ登りに上昇しており(05年2月期は旧態な季節MD依存が災いして1.4ポイントも落としたが)、既存店売上前年比が悪いと言ってもイオンと大差ない。それでも過去4期間に衣料部門売上は3,817億円から3,147億円と670億円(18%)も減少し、シェアは30.7%から25.6%へと5.1ポイントも低下している。
 売上は縮小再生産でも粗利益率は伸びているのだから業革MDは正しいという論理になるのだろうが、効率的MDに絞り込めば売場スケールも品揃えバラエテイも限定され、集客力も売上も落ちていく。これからの主力はSCの核店舗たらざるを得ないが、集客力が限られるコンパクトな店舗では核は勤まらない。
 直近2期間、ジャスコの新店は15,000平米級から18,000平米級に2割も拡大し今期は19,700平米級に達しているが、イトーヨーカドーのそれは12,300平米級から12,800平米級に拡大したのみで今期ようやく14,700平米級に達したに過ぎない。最新店舗間でも実に4対3の規模の差があるのだ。規模のみならず中身の品揃えも極端に絞り込んでいるのだから実勢の集客力格差はさらに大きいはずで、ジャスコ核SCとIY核SCの販売効率にも格差をもたらしている(当社はほとんどの新設/既設大型SCの販売効率を商圏データとクロスしてデータベース化している)。
 イトーヨーカ堂のSC戦略はスタートしたばかりだが、核店舗として集客責任を果たせないようではSC戦略も頓挫しかねない。業態としてのMD戦略は帳じりが合っても企業としてのSC戦略は成り立たないとなれば、究極に達した業革MD路線も転換を余儀なくされるのは時間の問題ではないか。

戦略交錯で肥大化したジャスコ

 イトーヨーカドーとは対照的に、ジャスコの新店は肥大化を続けている。04年4月開設の鎌ヶ谷店(16,589平米/衣料関連6,600平米)はまだしも、05年4月開設の八千代緑が丘店(20,416平米/衣料関連7,590平米)の広大な衣料部門は未整理で類似品の重複が目立つが、プライスラインから客層、テイスト、ディティール展開に至るまでバラエテイの豊富さは突出している。それが消化率や粗利益率の足を引っ張っているとしても(40%前後まで粗利益率を伸ばしたイトーヨーカ堂衣料部門に対してイオンGM部門のそれは33%台前半で足踏みしている)、絶大な集客力に繋がっているのは間違いない。
 広大な売場も未整理な編成や品揃えの重複も、SuC志向からモール核のPDS志向まで過去何年かの戦略の交錯がもたらした産物だが、結果として非効率だが多様な顧客を惹き付ける店舗が出来上がっている。モール戦略による巨大な不動産収益を食い潰してしまうほど収益性は低いものの、SC戦略で先行するイオンにとって核店舗の集客力は最優先のはずで、業革MDを突き詰めるイトーヨーカドーとは好対照をなしている。
 ジャスコ衣料品のプライスレンジは一時のSuC志向による低価格至上を脱したが、アパーポピュラーからロワーモデレートまで幅広く展開しており(NBやセレブデニムを除く)、ライン数もイトーヨーカドーほど絞ってはいない。初期はGMS衣料品のカテゴリー展開の枠を出ていなかったSuCも1ダースを超えてロワーポピュラー〜アパーポピュラーレンジのBB属性編集MDが確立され(真岡店以降、サクセスモデルに到達したと評価したい)、GMS衣料と一線を画した事もGMS衣料の混乱を多少は収拾する契機となったのではないか。  とは言え、ジャスコの売場編成は客層別に分けられてはいるもののアバウトで、その下はアイテム割りが主流でテイスト割りやブランド割りも脈絡なく交錯。客層のカバー率はイトーヨーカドーより格段に広いものの、テイスト/ルックの欠落や類似品の重複が激しい。売場編成の骨格を客層/テイスト別に設計し、ルックやディティールの展開までカテゴリー別の開発・調達プロセスをコントロールする仕組みを欠いているのだろう。その点ではイトーヨーカ堂の業革MDが一歩も二歩も先行しているのかも知れない。
売場の混乱は戦略NPB群投入の前兆か

 一時は力が入っていたPBも後退してレディスでは一桁のシェアに落ち(メンズも1割強か)、メンズでは量販NB依存がレディスではBB依存が目立っている。レディスの「EMA JAMES」、メンズの「KEN’S EYE」というせっかくの中核NPBもコーナーにまとめられているだけでブランディング戦略という次元にはない。衣料部門の中枢スタッフが何か別の事に集中していて、売場が野放しにされているという印象は私だけの錯覚なのだろうか。
 あくまで私の推察に過ぎないが、一時的PB後退も売場の混乱も戦略NPB群登場の前兆と見るべきで、恐らく来春から来秋にかけてビッグネイムの戦略NPB群が派手なプロモーションとともにインショップやコーナーで登場するのではないか。その時、肥大化した売場は整然と再編成され、モールの核を担う最強のPDSに変貌するはずだ。売上がすべてを癒すとすれば、非効率でロスの多いMDプロセスの改善という課題が残されたとしても、収益性は改善に向かうのではないか。

資料

※誌名のないバックナンバーは「ファッション販売」です。

『2006年度への経営課題』SPAC“ビッグコンベンション”レポートより
『2006SSへのMD戦略』2006SS版MDディレクションより
第87回全国有力SCテナント調査2005春商戦『不足の時代が新たなチャンスを開く』繊研新聞7月5日
『ローカル文化の風薫るイオン直方SC』2005年月8号巻頭カラー
『巨大SCが消費スタイルを一変させたイオン宮崎』2005年月8号巻頭カラー
『成功ビジネスモデルのトレンド』東レ経営研究所「繊維トレンド」No.52
『IY初のモール型SC“アリオ蘇我”を検証する』販売革新6月号
『NY/W.DCインプレッション “RUEHL”&“RUGBY”』オリジナルトピックス
『真のRSCエイジへの提言』オリジナル提言
『2005AWへのMD戦略』2005AW版MDディレクションより
『郊外RSC核百貨店はかく開発せよ』WWDジャパン2004年12月13日
『2005年のビジネスチャンス』2005年2月号
売上向上大作戦 【下】『売上向上への店頭在庫運用術』2004年12月号
『粋を尽くした通の贅沢空間 オペーク丸の内』2004年12月号巻頭カラー
『格調高くコンサバ路線でオープンしたバーニーズ・ニューヨーク銀座店』2004年12月号巻頭カラー
売上向上大作戦 【上】『売上減少の要因と対策』2004年11月号
『アバクロの魅力』WWDジャパン2004年8月2日
『2005SSへのMD戦略』2005SS版MDディレクションより
『フラクサスは真のデパートメントストアを目指す』2004年8月号巻頭カラー
『フラクサスに賭けたワールドの成長戦略』2004年8月号
『SC出店で成功する秘訣』2004年月7号
『メガストアの新時代を開いた“フラクサス”』2004年月6号
『郊外RSCと都心に燃え上がるメガストア・ウォーズ』2004年月6号
『あなたも出来るブランディング』2004年月4号
『SC出店を再点検せよ』2004年月2号
『2004年の七大潮流』2004年月1号
『業態分割なくしては「ユニクロ」のV字回復はない』2004年月1号
『セレクト業界を震撼させたクラスストアへの変貌 -伊勢丹本店メンズ館-』2003年月12号
『伊勢丹本店メンズ館の大胆すぎるリモデル』2003年月12号
『クラスストア神話を目指すユナイテッドアローズの新創業』2003年月11号
『脱同質化へ “店格”向上の志を持って売場の技術革新を急げ』2003年月9号

[ 以前の論文バックナンバー一覧 はこちら]