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小島健輔の最新論文

販売革新2007年9月号

『シニアアパレルの可能性を探る』

(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

 一言でシニアアパレルといってもミセス/アダルトからマチュアまで幅広いから、ここでは団塊世代を中心とした60才台の熟年マーケットと捉える事にしよう。男性では第一線は退いてもアクティブに生活を楽しめる年代であり、女性はライフスタイルの巾も広いから、ファッションビジネスにとって十分に魅力的なマーケットと期待される。にも拘わらず、魅力的なコンセプトを持ったシニアアパレルの開発は遅々として進んでおらず、マーケットは欲求不満状態に在る。
 団塊世代の大量リタイアが始まる07年に入り、百貨店アパレルから量販店アパレルまで熟年狙い企画や新ブランドがズラリと出揃ったが、どれも熟年世代の価値観やライフスタイルとはしっくりこない。メンズではレナウンの「ニブリック」に始まってワールドの「リプセット」に至るまで青春時代を振り返ったようなトラッド/アイビーが目立つが、それは彼等の今のライフスタイルとは馴染まないし体型的にも無理が在る。レディスではシーン対応こそ積極的だが、体型劣化への対応ばかりが前面に出てライフスタイルの共感を欠いている。外野からの固定観念ばかりが先走り、主役たる熟年世代のライフスタイルと価値観が反映されていないというのが実情ではないか。
 勘違いばかりのファッション業界に較べればスポーツ&アウトドア業界の対応はリアリティがあってまともだが、ライフスタイル提案と言うより機能対応という色彩が濃い。唯一、光っているのが「ハブァナイストリップ」(68店舗中、6店舗でメンズも展開)や「スタジオ・クリップ」(32店舗、生活雑貨とレディスのみ)などのライフスタイルSPA業態だが、レディスばかりでメンズは置いて行かれている。米国でもベビーブーマー対応の主流は「チコス」(35店のアウトレットを含む604店舗)、「SOMA」(同1店を含む63店舗)、「コールドウォータークリーク」(同25店を含む277店舗)、「Jジル」(同8店を含む249店舗)などレディスSPAだが、「トミーバハマ」のように熟年カップルを狙った業態も成功している。※店舗数は最新四半期決算による。
 我が国では何故、熟年世代を狙った魅力的なブランドやライフスタイル業態が揃わないのだろうか。その要因は熟年ライフスタイルに対する業界の認識不足にあると思われる。

熟年ライフスタイルとは何か
 米国ではベビーブーマーの熟年ライフスタイルというと‘サバーバン・リゾート’が典型的。子供が巣立ってエンプティ・ネストとなったサバーブの自宅をリゾート風に改装し、ガーデニングやアート・ワークを愉しみながら配偶者と余生を過ごすというもので、お金にゆとりのあるベビーブーマーはサバーブを脱出してフロリダなどのリゾート地へ転居してしまう。そんなライフスタイルに的を絞ったのが「トミーバハマ」で、全米のRSCやライフスタイルセンターに68店の直営店(カフェ併設大型店9店、アウトレット7店を含む)を展開する他、ゴルフリゾートのクラブショップなどでも販売されている。
 日本でこれに近いのが「パパス」だが、ファッションとしてのこだわりの強さが前に出てライフスタイルのリアリティを欠き、出店立地も百貨店などダウンタウン立地に片寄っている(67店舗)。価格も法外に高く、シニアの合理的な消費観念とは乖離している。対象年齢も団塊世代より高く若々しさを欠き、「トミーバハマ」のプロモーションに見る『若いパートナーと再婚してリッチなリゾートライフを楽しむ』という華はない。
 日本の建て込んだ住宅地で‘サバーバン・リゾート’を気取るのは無理が在るから、リゾートの別荘地やローカルの田舎暮しが舞台となる。お金にゆとりのある人たちは別荘やセカンドハウスでリゾートライフを楽しむだろうし、そこまで余裕のない中産階級もシェア・システムを活用したり旅行を楽しむに違いない。どちらにせよ熟年ライフスタイルの中核はリゾートと旅行である事は確かで、消費もそこを舞台にして、あるいはイメージして拡がる事になる。観劇やグルメのオケイジョンでも、リゾートの開放感が欠かせないのではないか。

熟年が求めるシニアアパレルとは
 シニアアパレルはリゾートライフと旅行にフォーカスすべきは明らかだが、以下の3点に留意すべと思われる。
 1)突出した資産生活者はともかく、現役を退けば収入は減少し年金や資産運用収入で暮らさなければならないから、コンパクトで合理的な消費を心掛けるようになる。孫達へのプレゼントなどは奢るにしても、自分達の日常生活はひと回り質素になるはずだ。リゾートライフでは不動産費(固定資産税や維持費、宿泊費など)が嵩むから、アパレル関連の支出はほどほどなものに留まるはずで、あまり高価格を期待すべきではない。
 2)体力/体型の劣化とリゾートの開放感は楽な着心地を求めるから、ファッションにこだわった都会的なスタイルは受け入れられない。型にこだわったアイビースタイルなど窮屈なばかりかリゾートでは滑稽でさえある。レディスでもモードやシルエットを意識し過ぎては窮屈で機能性を欠き、熟年ライフスタイルにそぐわない。
 3)歳を経て高質なアパレルを着慣れて来た人たちは過度にラフなものや低質なものは受け入れられないし、TPOのわきまえもある。若者のカジュアルをゆったり目に作り直したようなものでは通用しないのは当然だ。開放的なリゾート感と言っても、一定以上の質感ときちんと感が不可欠だと思われる。
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 このような条件を満たした上で、熟年世代のライフスタイルにフォーカスした魅力的なコンセプトを打ち出すなら、シニアアパレルの可能性は大きく開く。以下に幾つかの有望コンセプトとMD展開例を挙げておくので、参考にされたい。
 1)ハワイアン・コテージライフ
 「セカンドライフをハワイの別荘で過ごす」をテーマに、夫婦ペアのアロハ・ファッションから奥様のフラダンス用品、ネイティブなアウトドア用品まで揃える。高級住宅地のライフスタイルセンターやアップスケールなタウンセンターに出店する。
 2)ゴルフ・リゾート
 「夫婦でゴルフ・リゾートを楽しむ」をテーマに、夫婦ペアのゴルフウェアからアフターゴルフのリラックスウェア、ゴルフ関連アクセサリーまで揃える。モールやライフスタイルセンターやゴルフ・リゾートのクラブショップなどで展開する。
 3)コンフォータブル・トラベル
 「快適な旅を楽しむ」をテーマに、コンパクトで機能的なトラベルウェアやナイトウェア、旅行バックやポーチから便利なトラベル用品まで、痒い所に手の届く品揃えを徹底する。モールやライフスタイルセンター、空港のアーケードに展開する。
 この他、ガーデニングやアウトドア、レディスではヨギー(米国では「Lucy」が50店舗を展開して急成長しており、将来性に着目したVFコーポが買収)などが有望なコンセプトと考えられる。
 これらのコンセプトは環境や販売方法をパッケージした小売業態として展開されてこそインパクトがあり、大型店内のコンパクトなコーナー展開では平場に埋没してしまう。卸しのブランド展開ではなく小売SPA事業として開発されるべきであろう。加えて、「チコス」のように企画から販売まで顧客と同世代の熟年達を活用し、確実な実感を反映すべきと思われる。



※誌名のないバックナンバーは「ファッション販売」です。

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