ファッション・リテイリングの最新動向【第5回】
『成功ビジネスモデルのトレンド』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔
ビジネスモデルには新規技術開発や量産技術革新などによる開発系、提供方法や決済方法、調達手法やロジスティクスなどの革新による流通系、人件費の変動費化や雇用のアウトソーシングなどによる労務系、資金調達の証券化などによるファイナンス系、あるいはこれらの幾つかを組み合わせた複合系などが存在します。開発系一本槍では新手の技術革新やコスト競争に追い越されるリスクを否めませんし、ファイナンス系や労務系だけでは類似ビジネスとの競争が避けられません。流通系は様々な分野の技術革新の統合によって成り立つものですから、どれかの分野が競争力を失えば総体に響きますし、特定分野に固執しては総体のバランスを崩しかねません。要は傍から見るほどビジネスモデルは単純ではないという事なのです。
先に信念や思い込みがあって、何が何でもそれを離陸させ継続させようして複雑化する、初期のシンプルな枠組みだけでは競争力が危ういので確実な継続を求めて複雑化する、といった背景が考えられます。複雑化すればコストが重くなり、結局は継続が困難になります。永遠のビジネスモデルなど存在するはずがないのです。
初期のビジネスモデルが行き詰まる前に次のビジネスモデルを離陸させていくライフサイクル・ミックス戦略、あるいはより有利な戦場へと移動していくドメイン・ミックス戦略が不可欠なのです。実際、大手アパレルのビジネスモデル戦略を見ても、ライフサイクル・ミックス/ドメイン・ミックスを積極的に仕掛けている企業とそうでない企業の業績格差は明らかです。
しかし、産業界では02年以降の世界的な素材市況の高騰下で商品企画軸ファブレス方式が利益を生まなくなり、キーデバイス(基幹部品)を制するものが利益を独占するようになりました。主要国内工場をEMSのセレクトロンに売却してデバイス開発力を失ったSONYは業績が悪化して経営陣の更迭に至り、液晶バネルをキーデバイスとしたインソーシング戦略によってサムソンは世界企業へと躍進したではありませんか。
ファッションビジネスの世界でもINDITEX社は、自社企画に即応する大規模な染色整理&グレーディング工場を自営。周辺に配した縫製/ニッティングのフランチャイズ工場群を繋ぐミルクラン体制でウィークリーなQR生産を実現し、世界市場制圧を進めています。我国でもダイドーリミテッド社が中国で紡績から製品までの一貫体制を築き上げ、キーデバイスを武器としたインソーシング戦略を押し進めています。でも、このような動きはファッションビジネスでは極めて例外的なものです。
‘PROJECT X’を演じられなくなったメーカーはデバイス開発力を失い、遠からず業績が悪化して行きます。商社に代表されるAMS機能の発展で商品企画軸のファブレス方式がますます拡がっているのが実情ですが、産業界の異変を目の当たりにした今、インソーシング型ビジネスモデルの再評価が急がれるのではないでしょうか。
SSチェーン/ブランドビジネスのマルチドメイン戦略は都心立地の地盤沈下と百貨店の高コスト化、郊外大型SC開発ラッシュが背景ですが、SSチェーンとブランドビジネスでは多少、状況が異なりました。ブランドビジネスは百貨店の販売効率低下と反面での歩率高騰に耐えかね、まずはターミナル立地SC、次に郊外立地大型SCへと新たなドメインを広げていきましたが、百貨店に比べて前者は七掛け、後者は五掛けまで価格を下げる必要がありました。まずはアウトソーシングを軸としたサプライサイドの再構築でコストを下げ、段階を踏んで立地シフトを進めていったのです。SSチェーンの郊外立地大型SC進出においてはターミナルとの価格差はワンランク程度でしたから、販売効率の低さをカバーすべく調達コストの引き下げが突破口となりました。AMS業者等を活用したOEM調達というサプライサイドの革新がその前提となった事は言うまでもありません。
こうして百貨店をドメインとしていたブランドビジネス、ターミナルをドメインとしていたSSチェーンが、共にサプライサイドの革新によってSPA化によるマルチドメイン戦略というゴールに雪崩れ込む結果となったのです。
セールスサイドの革新は必ずサプライサイドの革新を伴います。サプライサイドの革新なくしてセールスサイドの革新は成り立たない、と言い切ってよいでしょう。逆も同様で、サプライサイドの革新もセールスサイドの革新を欠いては極めて不完全なものに終わります。両輪が連動するのがベストであり、ブランディング戦略ではその整合性が追求されます。
3)カタログ事業者のマルチメディア戦略とは、印刷カタログ/ウェブ/店舗が連動して相乗的ブランディング/販売拡張を実現するというビジネスモデル。米国では先駆者たるVictoria's Secretをお手本に、J.JILLやColdwater Creakがライフスタイルセンターブームに乗って急速な成長を見せつけています。
Victoria's Secretは77年の創業時からカタログ/ストアのマルチメディア・ビジネスを展開。82年に買収したリミテッド社の手でストアの急速展開とカタログ発行の多サイクル化が仕掛けられ、両者の相乗効果によって急成長の波に乗りました。05年1月期決算では全米に1001店舗を展開して31.13億ドル、メール&ウェブで11.19億ドルを売り上げています。
このビジネスモデルを参考にカタログ・リテイラーからマルチメディア・リテイラーへの変身を図ったのがJ.JILL社とColdwater Creak社です。J.JILL社は「メール/モール/ウェブ」をスローガンに99年からマルチメディア戦略に転換し、急速な出店によって04年12月期では154店舗を展開して2.44億ドル、メール&ウェブで1.91億ドルを売り上げるに至っています。Coldwater Creak社も99年からマルチメディア戦略に転換。05年1月期では135店を展開して2.96億ドル、メール&ウェブで2.94億ドルを売り上げています。
当初は印刷カタログ中心だった企業が店舗販売に進出し、ウェブとも連動して同一のマーチャンダイジング/ブランディングを展開するビジネスモデルで、メディアによってマーチャンダイジングを大きく変えたり、異なるブランディングを展開しては成立しません。既に確立されたビジネスモデルなのに、日本のカタログ通販業者は真面目に取り組もうとしていないのは摩訶不思議なことです。唯一、注目されるのがスタジオ・クリップで、SC出店によって一気にマルチメディア・ブランディングの波に乗りました。
マルチメディア戦略は同時にマルチメディア・ブランディング戦略であり、そのためにはサプライサイドの革新、とりわけマーチャンダイジングのブランディングが不可欠です。カタログでは通用しても大型モールでは通用しないクオリティやMD展開(=VMD)では、ブランディングの足を大きく引っ張ります。加えて、カタログでは考えられない速度で店頭MDは変化して行きますから、カタログの発行サイクル/開発サイクルを店舗MDと同期化する必要があります。その実現にはサプライサイドの抜本改革が不可欠なのは言うまでもありません。
米国アパレル業界におけるマルチビジネス戦略とは、ライセンスを受ける側にあったアパレル企業がライセンスを供与する側のデザイナービジネスを買収し、高収益なブランドビジネスに変身するというもの。ロイヤリティ負担から解放されロイヤリティを手にする側になれば一気に高収益体質となり、ライセンス解消に脅かされることなくブランド育成に注力出来るという好い事ずくめのビジネスモデルなのです。
02年のフィリップ・ヴァン・ヒューゼンによるカルバンクライン・インターナショナルの買収に続き、リズ・クレイボーンがエレン・トレーシーを買収。03年にはVFコーポがノーチカ、アールジーンなどを、リズ・クレイボーンがジューシークチュールなどを買収。04年もVFコープがVANS、バーニーズなどを買収しています(第2回参照)。
我国でも03年のファーストリテイリングによるセオリーグループの共同買収、東京スタイルによるリヴラボ(ナノユニバース)の買収、ビスケーホールディングによるファンコレクションの買収、04年にはファーストリテイリングによるナショナルスタンダード、ワンゾーンの買収、サンエーインターナショナルによるアングローバルの買収、シムリーによるトランスコンチネンツの買収と、米国アパレル業界とは構図が異なるもののM&Aによるマルチビジネス戦略が急速な広がりを見せています。 成功が確実な定石パターンはライセンシーによるライセンサーの買収ですが、我国では90年のレナウンによるアクアスキュータムの買収ぐらいしか事例が見当たりません。今後、大手アパレルや有力名岐アパレルが国内外のDCアパレルを買収するケースが増えて行くものと思われます。
もうひとつの定石パターンはマルチメディア戦略を構想しての買収で、カタログ通販業者によるウェブビジネスやブランドビジネス/SPAビジネス、あるいはブランドビジネス/SPAビジネスによるウェブビジネスの買収が考えられます。もちろん、資本戦略に長けたウェブビジネスによるブランドビジネス/SPAビジネスの買収もあり得ます。将来性の無い印刷カタログ通販業者を買う物好きは、さすがにいないでしょう。これらのパターンも、今だ我国のファッションビジネスでは極めてレアなケースです。マルチメディア戦略そのものが本格的に志向されていない事が要因と思われます。
加えて、視野が業界内に留まっては空振るリスクが生じます。小売業の視野から見て最適だったはずの物流戦略が物流業界のグローバル・インテグレーター戦略によって浪費に終わりかねないという最近の情勢はその好例でしょう。









